指を切っちゃいました。

このお話しは長編です。

休日の夜――。明日の朝ご飯を炊こうと、米袋包丁で切ろうとすると‥‥滑って切れないっ。あー、切れないっ。なんでこう滑るんだ、コノヤローめがっ! ザバっっ!
で、見事に切れました、左手の人差し指の先っぽが。
子どもたちの目撃証言によると、
「その瞬間、変な風に手をあげて、キッチンを行き来しながら踊ってた」

とぎジョーズ

見ると、骨の手前くらいまで、かなり深く、広く、ザッパリと切れており‥‥。どどどどーしてこんなにっ? ここまで切れるものなのかっ?
次女「その包丁、あたしが思いっきり研いでおいた。とぎジョーズで」
切れ味バツグン!

いやしかし、バンソーコー貼っとけば、なんとか‥‥。
女房「あんたはアホか。こんなに切れてるのに、縫わなきゃだめでしょ。すぐ病院行かないと! 救急車呼ぶより、自分で行っちゃった方が早いよ!」
で、女房の運転でS病院へ。

夜間受付へ行くと‥‥
S病院「診察券をお持ちですか?」
はい、持ってます。診てもらえますか?
S病院「いまはダメです」
はあ? なんで?
S病院「救急車が入ってくる可能性があるので」
じゃあ、いつならいいのさ。
S病院「他を当たってください」
だったら、診察券持ってるとか聞くな!
この病院には二度と来ないと決め、その場で診察券を捨てる。

他の病院に電話をかけていくと、
H病院「内科医でもいいですか?」
内科? 外科だと思うんですけど‥‥。
H病院「今夜は外科医がいないので、処置はできません。しかし、内科医ならいるので、応急手当くらいならできると思います」
とにかく痛くてしかたないので、とりあえず行くんで、お願いします。

H病院へ行き、内科医の先生に消毒をしてもらう。
内科医「明朝、もう一回来て、外科に診せてください。明日中に縫わないとダメです」
明日は出張が入ってるので来れません。3日後でもいいですか?
内科医「全然構いませんよ。ただ、3日後だと、縫っても元に戻らなくなるでしょうね。それでも良ければ3日後に来てください。(飛びっきりの笑顔)」
どうしても明日縫わないとダメらしい。。。
しかし、今さら大事な出張をキャンセルできない。てことは、なんとしても今夜中に、診てくれる外科を探さねば。
内科医「H外科医院なら診てくれると思いますよ」

さっそくH外科医院に電話する。
すみません、今夜診てもらうことができますか?
H外科医院「可能ですけど、どうしましたか?」
かくかくしかじかで、今夜縫って欲しいんです。
H外科医院「はあ、そうですか。縫って欲しいの」
いまH病院にいるので、これから行きます。同じ市内なので、すぐに着けると思いますんで。場所を教えてくれませんか?
H外科医院「はあ、場所ですか。説明しづらいんですよね」
H病院からの道を説明しづらいですか? じゃあ、H駅からの行き方を教えてくれますか?
H外科医院「それも、説明しづらいです」
駅のどっち側ですか?
H外科医院「どっち側と聞かれてもねぇ」
周りに目印になる建物とか、どこの角を入ればいいとか教えてくれれば、なんとか行けると思いますけど。
H外科医院「目印になる建物はありません」
それじゃ、近くになにがあります? なんでもいいんで、近くにあるものを教えてください。
H外科医院「周りには、なにもないです」
そんなわけないだろーが! なにかあるだろ、なにか!
要するにナニか? 「来るな」って言ってんのか?

このやり取りに頭に来て、今夜はこのまま帰ることに決定。
で、明朝、出張へ。

出張先では、打ち合わせの間中、ずっとズキズキじんじん痛くて、まるで会話が頭に入ってこなかった。こんなんだったら、来なくても良かったんじゃ。。。

夕刻――。出張先の顧客に病院を探してもらい、ようやく診てもらえることに。
外科医「一日放っておきましたか。こりゃあもう、縫っても綺麗にはくっつかないかも」
そんなこと言わず、なんとかしてください。
外科医「これは痛いですか?」
い、痛い! すごく痛いです!
外科医「痛くない!」
は? いや、痛いってば。
外科医「じゃあ、これは?」
いいいい痛い! 痛いです!
外科医「痛くない!」
あんた、なにやってんだ! 子どもじゃねーんだから、俺をさとすなぁ!
外科医「今度はほんとに痛いですよ。麻酔打ちますね」
指の先端に麻酔注射! これがとんでも痛かった。

中学3年のとき、紙をまとめて切断する機械で、右手の親指の爪を全部、その下の肉までエグって切り落とした経験がある。だらだらとを流しながら廊下へ出ると、保険委員の女子2名と遭遇。その2人に保健室に連れて行かれ、応急処置を受けたのだが、この処置がひどかった(思い出したくないので書きたくない。あの2人は俺を恨んでいたに違いない)。
その日の夜、病院へ行くと、
医者「保険委員が? そんなことされたんじゃ、痛くて気が狂ったろ。よく正気でいられたな」
――今回の麻酔注射は、これに次ぐ痛さだった。

外科医「それじゃ、縫っていきますね。横になって安静にしててください」
お願いします。。。
外科医「あっ? ん? んん? ありゃっ?」
‥‥どうしました?
外科医「んんんー? あれっ? なんでここがこう‥‥んにゃっ?」
あー、気になる! その独り言、ものすげー気になる!
外科医「ふーー、ふにゃあ?」
さっきからどーして疑問形ばっかりなんだよ! しかも、だんだん猫みてーになってくし! 失敗してねーだろーなっ!
で、7針も縫われた。

翌日、会社へ戻り、事情を話すと、
T君「おささん家って、ハサミという物がないんですか?(チョー冷静な声で)」
まぁ、なくはないです。。。
T君「おささんの場合、子ども用の切れないハサミがいいと思います(さらに冷静な声で)」
それじゃ用をなさねーだろっ。。。

一方、女房は、
女房「こんなとこ切ったんじゃ、もうギター弾けないね。だって、セーハできなくない? よかったじゃん、諦めがついて」
よかったとは言わねー。