百のTAB譜

高校時代、バンドメンバーに、あだ名が「百(ひゃく)」という男がいた。実家が農家とゆーわけじゃないのだが、その風貌がいかにも百姓で、そこから百と呼ばれるようになった。

だもんで、バンド名は「百姓バンド」だった。女の子が聞きに来るわけがない。

その風貌はともかく、ギターの腕は確かで、エレキ(ロック)、スチール(アコ)、ガット(クラシック)と何でも弾きこなし、その腕前に野郎連中はみな平伏していた。女の子は誰も平伏さなかった。

んが、百の彼女は、「おい、てめー、どーゆーことだこりゃあ!」と叫んじゃうくらい可愛かった。


一方で、「俺は百よりうまい!」と豪語するお坊っちゃま(家がチョーお金持ち)のS君とゆー男がいて、決して「俺はうまい」などと口にしない百とは対照的に、女の子たちに「俺はすげーうまいぜ! 百なんか目じゃないぜ!」といつも言ってるのだが、誰もS君のギターを聞いたことがない。
「そんなに言うなら、スタジオ取るから俺たちに聞かせてみろっ」
S君 「よっしゃ、その勝負受けた! 後悔させてやんぜ!」
当日、エレキ(何モデルだか忘れたけどすげー高いやつ)と、アコ(オベーション*1)を2本携え、さっそうとスタジオに登場したS君だったが、
S君 「あれ、おっかしーなー、どーも今日は音が合わねー」
とか言いながら、2時間もの間ずっとチューニングを続け、ついに最後までフレーズの一つ、コードの一つすら弾かなかったとゆー伝説を作った。時間切れになったとき、「ふぅ〜っ」とS君が額の汗をぬぐったのを、みんなは見逃さなかった。

その翌日、何を言い出すかと思いきや、
S君 「百のギターはインチキだ! 弾きやすいように加工してあんだ! でなきゃアコであんな早弾きできるわけねー!」
あんなこと言ってっけど。どーする?
「んじゃさ、俺のギターとお前のオベーション、交換する?」
S君 「え、まじかっ? いーのかっ? よーし、交換しよーぜー」
かくして、百の名もないボロギターは80万円のオベーションに変わり、百はそれでステージに立ち、「いやー、持つべき者は金持ちでバカな友人だよねー」と言ったとか言わなかったとか。

一方、百のギターを手に入れた、とゆーかオベーションをただ同然で譲ってしまったS君は、
S君 「俺のこの腕と百のギター、これで俺は無敵だぜぇ」
とほざいていたが、その後もS君のギターを聞いた者は現われなかった。


百はその風貌からは想像つかないが、さだまさしの大ファンだ。さだまさしをケナすと、めっぽー怒る。
「百さ、『検察側の証人』コピーした?」
「やったやった。ソッコー」
「んじゃTAB譜にしてくれ。d(^ ^)」
「ああ? ざけんなてめー、なんで俺がわざわざお前にTAB譜書いてやらなきゃいけねーんだよっ。自分でコピーすればいいだろっ。しかもお前はさだまさしのファンじゃねーだろーがっ。さだまさしを生涯応援すると誓うかぁ!」
「い、いや、誓わない。(^^; しょーがねーなー、じゃあ見返りやっから」
そのとき何を見返りにしたのか、俺はまったく覚えてない。が、その翌年の百からの年賀状に、

さだまさしを生涯応援しよう!

と書いてあったことは記憶にある。

百が書いてくれたTAB譜

あれから20年以上が過ぎ、先日書籍を整理していたら、いやーすげーなつかしー、あのとき百に書いてもらったTAB譜がひょっこり出てきた。

注意書付き

さらに特別サービス付き

おまけになんと特別付録付き

いま改めて見てみると‥‥「俺は忙しい! ヒマじゃねーんだ!」とか言ってたわりには、いっぱい書いてあって、なんかずいぶんサービスいいな。 俺はいったい何を見返りにあげたんだろ。うーむ、ナゾだ。

ところが一方で、

レコードはハイコードでオクターブ上だから・・・

やりたきゃかってにやりなさい――って、手抜きしてんじゃん!


なお、百は高校一年の秋、「俺さ、医者になろうと思うんだよね。だから俺、わりーけど勉強しちゃうよ」と言ったかと思いきや、次の期末試験でいきなり首席になり、以来卒業まで首席の座を守り続けた。で、医学部へ行き、今は本当に医者になってる。

*1:アコースティック・ギター最高級モデルの一つ。I君@哀愁の下町シンガーは社会人になってからお金をためて買った。